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37年前の赤い糸【3-3】

~ もう、忘れていたみたいだから、いいよ… ~

彼女の誕生日は、冬休み期間にあった。
だからといってそれが理由に出来るわけではない。私は彼女の誕生日にプレゼントを届けられなかった。
プレゼントのタイミングを遅らせる/遅らせざるを得ない理由はいくらでもつけられた。
まだまだ子供だったのだから。行動は家族(親)に随分制約されていた。
中学校1年生の冬休みである。今はどうなのか知る由もないが、当時はそれなりのボリュームの宿題があった。また年賀状を書き、年末年始の「家族行事」に家族帯同で行動することも必須。だから理由と云えば理由になったが 理由にならないといえば「そんなの、理由にならなかった」。私自身、そう思っている。

私は冬休みが明けた3学期の初日に誕生日のプレゼントをした。これで“負債の消し込み”はできた、と思った。

けれども 翌朝学校の靴箱に入っていた手紙を見て、自分の至らなさを思い知らされた。

「もう忘れていたみたいだから」

釈明すればよかったのかもしれない。
謝罪すればよかったのかもしれない。



精いっぱいの虚勢を張るのなら
「ボーイフレンド/ガールフレンドの関係から、仲の良い同級生に戻った」
ということになるのだろう。

大人となった今、甘美な記憶をひも解くにつけ、そう思うが当時はそんな気持ちを抱けなかった。ほかにも学友との付き合いがあり、好奇心の対象も、学校から課される課題も山積だった。
そして3学期は終わってクラス替え。

2人の絆は風化し、霧消した。

あれから37年。
私が知り合った友人・知人の誕生日や記念日を忘れず、祝辞を送ったり話題に出す遠因は“彼女”を傷つけた、寂しい思いをさせたことに対する贖罪の意識にある。

そして 毎年とは言わないものの 夏が来ると ~近隣の商業施設でマネキンが水着や浴衣を纏い始める時期がやってくると~ 私の心は地獄の業火に焼かれることになる。プール遊びをして、お弁当を独り占めさせてもらったあの夏を思い出して。

体調を幾重にも壊し、気付かぬうちに人並より速いペースで死期を迎えようとしているのかもしれない、いまの私。

就寝していると、浅い眠りの中で見る夢の中に 昔の友人・知人・学友・恩師…多くの人々が現れる。
その中で最も忘れ難く、またもっとも穢したくない“こよなく懐かしい人”が彼女であることに疑問の余地はない。

逢いたいと考えたときもあった。とある事情で、2000年の春ごろにその思いは強くなった(が、その事情については本稿では割愛する)。

同時にあれこれ自問自答した。

中学2年のときの私は彼女を求めたのか?
高校受験のとき、彼女を励ましたのか?また、励まされたのか?
高校1年生の夏休み前、下校の電車内で再会した時に手を掴み、引き寄せ、抱擁したのか?
大学生活で学友とトラブルを起こしたとき、彼女に癒しを求めたのか?
社会に出てから 婚姻に発展しそうな、或いは発展させたくなるような異性に出会った時、それを躊躇させるほどに彼女の存在は重く鎮座していたのか?

人生の節目節目で 

「彼女はいなかった/意識の中になかった」

なぜ、これほどまでに彼女の記憶に執着するのかもなんとなくわかっている。しかしその気持ちに忠実に「今、行動すれ」ば、間違いなく地獄が開門する。



この2週間、著しく体調を崩し、あれこれ考え込む中で
「彼女は私という名の歴史の教科書の1ページに息づく歴史上の人物のようなもの」。
そう結論付け、自分自身に言い聞かせることで、ようやく気持ちが落ち着いてきた。
「久しぶりに子供時代に大切にしていたおもちゃ箱を開けてみたら、お気に入りの玩具に再会し、当時の心境に戻って戯れているのと同じ感覚なのではないのか」と、少々辛辣に自らを戒めてはいる。

けれども

「もう思い出すことはない」とは言えない。吹っ切れたとも言えない。
毎年とは明言しないものの、私の卓越した記憶力は私自身をこれからも苦しめるに違いないが、その苦しみを受け続けることが贖罪の一部だと思うようにしている。

いつか 美しい and/or 可愛らしい記憶のポートレイトとして フォトフレームの中で掛け値なく輝いてくれる想い出に昇華してくれるときが来ることを願いながら、気持ちの整理を続けていきたいと思う。

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